豆腐の声を聴きながら......
家には秘伝の木の芽味噌が百年に渡って伝わります。豆腐にこの木の芽味噌を付けて焼き、湯葉に絡めて食した記憶はどんな料理よりも鮮明で、私を豆腐料理へ誘う原体験だったのかもしれません。
俳人荻原井泉水は「豆腐」という随筆の中、豆腐を擬人化した上でどんな食材・調理と合わせても相和する......いかした漢(おとこ)と述べています。
大豆は信州ナカセンナリ。にがりは天日の塩田にがり。大豆の声を聞きながら、必要なだけ、にがりの味が勝たないように、あくまで隠し味として使います。良い大豆を使わないと、どうしてもにがりにのみ頼ってしまうことになります。
なんでもにがり豆腐がいいわけではありません。合わせる食材や出汁の濃さでもっとも美味しく調和する豆腐は様々です。
すまし粉で寄せた淡泊な豆腐、濃厚なにがり豆腐。みずみずしいさらし豆腐にまったり無骨なざる豆腐。豆腐の声を聴きながら、素材や調理に最適な豆腐を使ってこそ、豆腐の美味しさと「いかした漢」に驚きをもって感動できると思います。
美味しいものを話題に心の和む時間。また、ささやかにでもご家族やご友人との絆を深める笑顔と話題を引き出せるような店になれば幸いです。
店主
